2010.09.23 13:06 更新
来月9日から公演の始まる『大江戸ロケット』(11日まで、サンエールかごしま)は、鹿児島の演劇人30名近くが登場する、最大級の舞台になりそう!一言で言えば、愛と心意気の「冒険活劇」(劇団鳴かず飛ばず主宰・米田翔太さん談)。家族や恋人と見ても楽しい、芸術の秋にふさわしい大作です。
時代は享保年間、老中・水野忠邦の倹約令で娯楽とぜいたくを禁じられた江戸。違法と知りつつも打ち上げ花火の試射に明け暮れる花火師・玉屋清吉の前に、謎の美女ソラが現れ、「お前の花火で私を月へ返してくれ!」と頼みます。聞けば、宇宙怪獣を追って地球に来たものの宇宙船が壊れ、帰還できない身の上。時を同じくして謎の連続殺人事件が発生し、南町奉行・鳥居耀蔵の指揮のもと懸命の下手人探しが行われていました。厳戒態勢の城下町で、清吉は月まで届く花火を打ち上げられるのでしょうか?ソラは無事に月へ戻れるのでしょうか?
リハーサル前の稽古場に出演者の一人・春田早希奈さんを訪ね、今回の役作りについてお聞きしました。
ダンスが得意な春田さんは、引き締まったボディ&キレの良い動作、はっきりした顔立ちと、俳優として恵まれた素質を持っています。けれど、配役の鳥居耀蔵は男性。しかも老中・水野忠邦の右腕として厳しい取り締まりで「妖怪」と怖れられた実在の人物でもあり、劇中では幕府の権威の象徴、清吉とソラの計画を妨害する悪役です。
「はじめ鳥居をやるとは考えてもみませんでした。無理だと思ったし。清吉やソラたちとは対極にいて、舞台を恐怖と緊張感で支配せねばならない役、断固たる態度と行動の持ち主。現実の私は他人の意見に左右されやすい性格なのに。イメージがつかめないまま演出家の言うとおり演じてたら、演技がロボットみたい固まってしまい・・・まるで維新ふるさと館の偉人ロボットのようでした」
春田さんは役のイメージに迫ろうと鳥居耀蔵の伝記を読み漁り、演出家の原田耕太郎さんと話し合いを繰り返しながら、もがき苦しみます。
「ステップアップのきっかけになったのは、8月に劇団員と東京まで見に行った『広島に原爆を落とす日』でした」
春田さんが見た舞台は、7月に亡くなった劇作家つかこいへい氏への追悼となった公演。原爆投下の鍵を握る首相役(山本亨さん)が参考になったといいます。
「これだ!って思いました(笑)。演出家も同意見。でも、他にも問題がありました。私は山本亨さんとは違うし、悪に徹しようとしたって女性は優しさが出てしまうもの。劇中の最高権力者・鳥居は恐怖と緊張で支配する男性で、権謀術数に長けた幕府高官。もし女性の私ができるとすれば、鳥居が"殿方"ではなく"姫君"だったらどうふるまうか?!ってことだろうと想像をたくましくしながら・・・同時に悪役を演じて評判だった女優さんもチェックし続けました」
TVドラマで活躍中の天海祐希さんの演技に目が向く。宝塚歌劇団・月組男役トップスターだった天海の、迫力としなやかさが参考になると気がついた。何がステップアップのきっかけになるか分からないから役者は面白いと言う春田さんです。
でも、けっきょく鳥居は悪役で、清吉やソラを潰そうとする町奉行でしょ? と質問すれば、「鳥居が追うのはあくまで江戸で殺人を繰り返す怪獣で、怪獣は幕府にとって西洋列強と同じ外圧・外敵と見なされたから」と明快な答えが返ってきました。
要するに清吉たちとの確執は話のなりゆきでしかない。そっかぁ・・・町人とはレベルが違うのね。
「見下せ、と演出にも言われています。一瞬たりとも気が抜けません」
殺陣も最高にカッコいい春田さんの演技は、会場でご覧ください♪
劇団の主宰・米田翔太さんの役は、長屋に住む錠前屋の銀次郎。
南町奉行・鳥居に隠密だった過去を握られ、脅されて秘密警察・黒衣衆のリーダーに。玉屋清吉の友情との板挟みに苦しみながら途中で裏切ったと思われた銀次郎ですが、最後にロケット発射を守るため命を賭けます。
物語のテーマを「誰も1人では何もできないし、皆どこか欠けたところがあるものです」と読み解く米田さん。過去の公演ではオリジナル脚本の大部分を書いてきただけに、劇団☆新感線の中島かずき作『大江戸ロケット』に対しても、ひと味違う分析です。「誰もどこか欠けた人間ばかりなのに、ロケット打ち上げで皆が一緒になる。欠けたパズルの最後のピースがぴたりとハマるみたいに」
他人が書いた戯曲を役者として演じるのも楽しいと微笑む姿から、演劇が本当に好きなんだという気持ちが伝わってきます。「自分で書いた脚本のようには、計算できません。計算できない、見えないからこその発見もある。他の役者と同じです」
米田さんの笑顔を見るだけでも、サンエールかごしまへ行く価値はある気がしました。
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